たがらもの
ばかにされる たがらもの かわいそうな たがらもの なんにも わるさしないのに みんなが いじめる たがらもの わらっている たがらもの さびしそうな たがらもの だーれも あいて してくれぬ それでも うろうろ たがらもの たがらものは おたからだ たがらものは おにもつだ それだけ いっそ むぞこいな かぞくは みんな しんぺする |
馬鹿にされる 愚かもの 可哀そうな 愚かもの なんにも 悪戯 しないのに みんなが いじめる 愚かもの 笑っている 愚かもの 寂しそうな 愚かもの だーれも 相手 してくれぬ それでも うろうろ 愚かもの 愚かものは お宝だ 愚かものは お荷物だ そらだけ なお 不憫だな 家族は みんな 心配する |
「たがらもの」は宝物で小 ばかもの、愚かもの、無能 者、うすのろ、道楽ものな どを意味しました。いまな ら差別用語とした槍玉にあ げられるところですが、私 の子供時分はみんな平気で 使っていました。 |
子供のころ近所に「たがらもの」が住んでいました。学校には通っているので
すが、教室では完全なお客様で、ただじっと座っているだけでした。休み時間に
なっても遊びの仲間に加えてもらえないのに、それでもにこにこしていました。
知恵遅れの子供だったのですね。仲間はそんなことは知りませんから、先生の目
の届かないところでいじめたりもしました。悪いことをしたものです。その子の
家族はどんな思いだったのでしょうか。さぞかし「むぞこい」思いをしたのでし
ょう。この言葉は残酷、不憫、気の毒などを意味する「無慙(むざん・むぞう)
」が転化したもので、「もぞい」「もぞこい」ともいいました。
子供の世界は残酷ですから「たがらもの」は馬鹿にされたり、いじめられたり
しましたが、戦前の社会全体はこうした弱者を切り捨てるのではなく、能力に応
じた生活の場を提供しながら、温かい目で見守っていたような気がします。効率
一点張りの社会は弱者には住みにくい世界ではないでしょうか。